―三つの要望を求める署名活動を全国へ―
三荻 祥
■はじめに
尖閣諸島周辺沖での中国トロール漁船衝突事件が起きたのが、約二カ月前の九月七日。船長は公務執行妨害容疑で逮捕されたが、同月二十五日、処分保留のまま釈放された。
この動きに対して、全国各地で「尖閣を守れ!」と情宣活動や集会、デモ行進などが大々的に行われている。そのような中、尖閣諸島を抱える沖縄県でも、「中国の領海侵犯から尖閣諸島海域を守る沖縄県民の集い」が行われた。
■安心して安全な操業をさせてほしい
沖縄県の八重山諸島の北北西に位置する無人島群を総称して「尖閣諸島」と呼んでいる。島嶼群は、「魚釣島」「北小島」「南小島」「久場島」「大正島」の五島嶼と「沖の北岩」「沖の南岩」「飛瀬」の三岩礁で構成されている。
琉球にも中国にも属することなく無主地であったのを、明治二十八年(一八九五)、日本に領土編入し、沖縄県の所属となった。現在は沖縄県石垣市登野城に属しており、それぞれの島には地番も付されている。
尖閣諸島が我が国の領土であることは自明の理であり、国家として尖閣諸島とその海域を護るのは当然のことである。そのような声が沖縄県民の集いで次々と表明された。
「中国の領海侵犯から尖閣諸島海域を守る沖縄県民の集い」は、十月十六日、沖縄県宜野湾市にある沖縄コンベンションセンターで開催された。開会の十五分ほど前から、どんどん参加者が集まり、開会時には満席。さらには立ち見や急遽二階席を設けるなど、大変な盛り上がりを見せた。
最終的に七百名近くが駆け付けたが、地元の方によると、いわゆる保守系の集会で、これほど集まったことはないという。沖縄県民の関心の高さと、尖閣を護りたいとの強い意志が伺える。
集いには、たちあがれ日本の平沼赳夫代表や民主党の中津川博郷議員ほか多数の国会議員と、石垣市長、宮古島市長、与那国町長のほか、八重山や伊良部、与那国の漁業組合関係者が登壇した。大会実行委員長の中地昌平氏は、「尖閣諸島の問題は、本県のみの問題ではなく、日本国全体の問題でございます」と述べ、この集いをきっかけに、我が国の安全保障論議が真剣に行われるようにとの願いを話された。
また石垣市長の中山義隆氏は、市長であっても尖閣諸島への上陸が認められないとして、次のように話された。
「石垣市は尖閣諸島を行政区域に掲げている自治体であります。中国人船長が残念ながら処分保留のまま釈放されるという事態に至りまして、議会のほうでも早速決議をし、そして行政としても国に対して政府に対して、四つの要望をさせていただきました。まず一つ目は、石垣市の行政区域である尖閣諸島が、日本の領土である、そして領海であるということを明確にしてもらいたい。二つ目は、巡視船や漁業監視船を増隻し、警備を強化してもらいたいということ。そして三つ目は、避難港という形でも構わないので、尖閣諸島に港を作ってもらいたいということ。四つ目は、行政区域である石垣市が現地調査をして固定資産税の評価をしなければなりません。しかし実際には首長であっても上陸すら認められていない状況であります」
また私が特に印象に残っているのは、安心して漁業をさせてほしいと訴えた宮古島市の下地敏彦市長と与那国漁業協同組合の中島勝冶組合長のお話だ。下地氏は、台湾や中国漁船の違法操業を、「我が国の国益、主権が侵されている」として、次のように話された。
「漁師の方々が望んでいるのは、安心して安全な操業をさせてほしいという至極もっともなことなのです。漁師たちは、いつも大きな外国船の影におびえながら操業しています。邪魔をされることもあるんです。まさに我が国の国益、主権が侵されているのです。今回、目の前でそれが示されました。この大きな問題を我々はしっかりと受け止めて行動しなければならないと思っています」
また与那国の中島氏は、漁業をするうえでの不安について、切々と訴えられた。
「皆さん、国境の海域を護っているのは誰だと思いますか?私たち漁師です。しかし私たちがもしも台湾や中国の取締船に拿捕されたとき、どうなってしまうのでしょうか?日本は果たして僕たちのために何かしてくれるのでしょうか。今月八日にめざましテレビの記者と一緒に与那国沖合に出ました。すると島からわずか二十キロのところで、堂々と違法操業をしている台湾漁船に出くわしました。私たちは切羽詰まっています。どうか、お力をお貸しください」
こうした地元の方々の切実な訴えを聞き、まさに今生活が脅かされ、命の危険に直面している方々がいらっしゃること、我が国の主権が侵される重大な問題であることをしっかりと認識しなければならないと痛感した。
■沖縄から発信された三つの要望
大会の最後に、自民党・参議院議員の島尻安伊子氏から、沖縄県民のメッセージが読み上げられた。メッセージでは、沖縄県の問題を全国の問題とし、国民一丸となって、次の三点を求める署名活動を推進することが確認された。
二、外国漁船による違法操業を取り締まるため、関係省庁による現在の警備体制を強化する方策をとるとともに、外国船舶の領海侵犯・違法行為に対し、拿捕を可能とする関係法令の整備をはかること
三、現在、自衛隊には、平時において領土・領海を守るための法的根拠がない。したがって、領土・領海を警備するための根拠法の制定を推進すること
沖縄からのメッセージで、自衛隊について明記されたことは画期的だ。沖縄戦や戦後の基地の経験から、軍隊や自衛隊へのアレルギーは強い。しかしこの度は石垣市、宮古島市、与那国町の方々の強い要望があり、県民からのメッセージに盛り込まれることになったという。
■石垣市で尖閣諸島への上陸視察決議が可決
こうした動きを受けて、石垣市議会では、十月二十一日に、尖閣諸島への上陸視察を求める決議が全会一致で可決されている。平成十七年六月に、一度上陸視察決議が可決(賛成十、反対九、退席二)され、実現しないままでいたものが、今回再び可決したものだ。中山市長は、石垣市でも大規模な集会を開催し、尖閣を守れとのメッセージを発したいという。
一方で、こうした動きとは裏腹に、地元二大紙(琉球新報、沖縄タイムス)の事件の取り上げ方は小さい。琉球新報は、事件が起こった翌日の九月八日、九日と拘置延長翌日の二十日、船長釈放当日の二十五日は一面で取り上げているものの、その他はそれほど大きく取り上げているわけではない。それ以上に強調されているのは、普天間基地の県外移設と今月末に控えた沖縄県知事選についてである。
メディアを通せば、尖閣問題についての沖縄県民の声が聞こえづらいのが現実だが、この県民の集いに参加し、漁師の方々の切実さと島の市長らの真剣さ、そして沖縄県民の熱気を肌身に感じた。数名の参加者にも感想を伺ったが、「国会議員の先生たちの熱気が印象的でした。沖縄まで来て、呼び掛けていただき、ありがたいです」「国会議員、先島の首長、漁業組合長など、いろいろな話を聞けて、大変有意義でした。家族の者も参加させたかったです」などの声を聞くことができた。
こうした沖縄県民のメッセージを無駄にすることのないよう、我々本土の者はこの声を真摯に受け止め、尖閣諸島を始め、我が領土領海を守るための署名活動に取り組んでいきたい。